ZONE『約束 〜August, 10years Later〜』 - 5日と20日はJ-POPを読もう。
ZONE『約束 〜August, 10years later〜』
叶わなかった約束、叶えるための今
こんにちは。約束は守るタイプです。だって、
今回は、前回の予告通り、ZONEの新曲『約束 〜August, 10years later〜』を取り上げるから。この曲はZONE『secret base〜君がくれたもの〜』っていうことになっています。どんな歌詞かというと…。
風のはじまる場所 語った夢ノカケラ
君はどこで 今この空みてるの?
こんな冒頭。…あれ?
気づいた人はけっこうコアなファンの方でしょう?『風のはじまる場所』、『夢ノカケラ…』…ZONEの過去の楽曲のタイトルがたくさんちりばめられています。ほかにも『ボクの側に…』『白い花』『僕の手紙』『H・A・N・A・B・I〜君がいた夏〜』『一緒にいたかった』『secret base〜君がくれたもの〜』『一雫』…ZONEのことはすごく詳しいわけでもない私でも歌詞サイトを見ながらこれだけ挙げることができます。たぶん、楽曲のタイトルだけではなくて歌詞の内容まで鑑みればもっとたくさんの曲を挙げることができるんじゃないかと思います。
じゃあ、この曲は昔のいろんな曲をただつなげただけなのでしょうか?
そんなことはないと私は思います。活動再開って、やっぱりファンからの期待も高まるというもの。今回の歌詞は、ちゃんとその期待に応えることができている、よく練られたいい歌詞だなぁと私はすごく思いました! どうしてかっていうとね…。
歌詞はこちら→
構成はこちら→A-A-サビ-A-A-サビ-C-"サビ-サビ-サビ'-アウトロ
こそあどのトリック
この曲、指示語の使い方がすごくよく練られています。指示語って、こそあど言葉のことです。
指示語といえば、森山直太朗『さくら(独唱)』でも取り上げたことがありますが、あのときにはこそあしか出てきませんでした。今回はこそあどの4種類をコンプしています!
「こ」が入っている部分から、順番に引用してみましょう。
君はどこで 今この空みてるの?
何も私たちの間を邪魔することはできない
僕の手紙が ここに今も…
君とみたあのH・A・N・A・B・Iが 今はこの空に咲いてるよ
今もこの胸には 君がくれたものが 10年たってもかわらずに
なにか気づいたことはありませんか?
「こ」が入っている部分には、100%必ず「今」という言葉も入っています。「こ」と「今」はセットなのですね! 「こ」は近称といわれていて、空間的な近さを示す言葉ですから、「こ」と「今」がセットだということは、時間と空間の距離感をシンクロさせて考えている、ということになるでしょうね。YUKI『COSMIC BOX』と同じです。
じゃあ、今度は「そ」を見てみましょう。「そ」は最後の1個所にしかありません。
描いてた その未来を君にみせたい
ここでは「そ」は「未来」という言葉にかかっています。これについては後ほど「あ」や「ど」といっしょにまとめて考えてみましょう。
次は「あ」。
君とみたあのH・A・N・A・B・Iが 今はこの空に咲いてるよ
「あ」は「H・A・N・A・B・I」を形容しています。そして、「あのH・A・N・A・B・I」と「今はこの空に」が対応する関係になっていることが分かります。「この」に対応している「あの」は、過去の世界を示すものだと考えられますね。
最後に「ど」。これも1個所しかありません。この歌詞の冒頭の部分です。
君はどこで 今この空みてるの?
この部分から、大事なことが分かりますね。歌い手は、約束の10年後「君」に会うことは叶わなかったのです。
というわけで。こそあどが出そろいました。ここから考えられることはどんなことでしょうか。
この曲の世界の出発点になっているのは「あ」です。描かれているのはきっと『secret base〜君がくれたもの〜』が歌われたのと同じ、10年前の出来事なんじゃないかと思います。
それと対になっているのが「こ」です。「こ」は現在を表しているので、きっと約束から10年経った"いま"へと結ばれる言葉なのでしょう。
さて、問題は「そ」です。
描いてた その未来を君にみせたい
未来を描いていた時制は、おそらく10年前の過去です。ということはつまり、「あ」と同じ時間ですね。でも、描いている内容は、10年前から見た未来です。
何が来ると、ジャスティン·ティンバーレイクの周りをまわる
つまり、10年前に描いていた10年後(つまり現在)のビジョンが「そ」に該当するのでしょう。
10年前には、再会を期した約束をしていました。「そ」の世界には、そんな再会のイメージがぜったいにあるはずです。でも「こ」の世界では、再会は果たされません。
君はどこで 今この空みてるの?
つまり、再会をイメージしていたはずなのに、実際には再会できなかったのだと、私はこの歌詞を見て思いました。そのギャップを、最後の指示語「ど」で表していたのですね。
再会のポストポーン
ZONE『secret base〜君がくれたもの〜』の歌詞を改めて引用しておきます。
君と夏の終わり 将来の夢
大きな希望 忘れない
10年後の8月 また出会えるのを 信じて
サビにはこういう歌詞がありましたね。夏にお別れてしてしまうけれど、10年後の8月の再会を期しているシーンです。
翻って、アンサーソングである今回の『約束 〜August, 10years later〜』ですが、歌詞にはなんと書いてあるでしょうか。
君はどこで 今この空みてるの?
いろんな場面を引用することができると思いますが、私は最初の連に出てきた、この表現でもう十分だと思います。「君」には会えなかったのです。
反論の余地のある歌詞も、あるにはあります。例えば、
今もまだボクの側に 君がいるから
こういう表現も確かに、この歌詞にありますね。でも、ここに出てくる「ボク」だけカタカナ表記なのはちょっと不思議だと思いませんか? 私、この「ボク」は、ほかに出てくる「僕」とは違って、10年前の一人称なんじゃないかなと考えました。だとしたら話の筋はすっきり通ります。今もまだ10年前の自分の側に、君がいるからという意味に読むことができるからです。
遠い夏 駆け抜けてく 最後の言葉を忘れない
僕達はきっといつか 約束の場所でまた会える
「いつか」って…。10年後の8月に会えるはずじゃなかったの!?
約束の「10年後」(=つまり現在)に「君」は不在です。でも、歌い手はあきらめていません。約束を「いつか」に置き換えて、まだ再会をどこかで期待しています。
10年前に別れたふたりは、10年後の再会を約束しました。ふたりにとって、この約束だけが確かなものでした。
尊敬、あなたは歩いて、何を言った
そして、約束のときが来たとき、ふたりは再会することができませんでした。「僕達はきっといつか」と歌い手はまだ歌い続けます。でも今回は、前回と決定的に異なることがあります。
今度の期待は、確かなものではない、ということです。
新しい再会はいつになるのか分かりません。歌い手がひとりで期待しているだけでは叶いにくいものだと思います。でも、別れてしまった「君」と再会するためには、そうして期待しつづけることしかできないのだともいえます。
その決意の表れは、この歌詞の最後にも見えてくる気がします。
描いてた その未来を君にみせたい
ふつうだったら「みせたかった」とするのがストレートな表現だと思います。でもここがあえて「みせたい」になっているのはなぜでしょう。「みせたかった」だと、もうみせるチャンスがないような響きがするからだと私は思います。「みせたい」という現在形を使って、その気持ちをこれからも大事に紡いでいくこと。いまの歌い手には、それが希望をつなぐ唯一の手段なのです。
つながリンク
前回は、ねごと『カロン』を取り上げました。今回のZONE『約束 〜August, 10years later〜』との共通点は、約束です。
前回のねごと『カロン』では、
たったひとつのうそと
たったひとつの約束を
同じように守れたら
という部分に「約束」が登場します。この曲は1番と2番との間で対立する関係ができていました。もしこの「うそ」と「約束」を対立関係に当てはめるなら、
1番 | 2番 | |
---|---|---|
夜 | 時間 | 朝 |
月 | 天体 | 太陽 |
星が夜に溶けてしまいそう | 空との関係 | 太陽が夢を染める |
ひとり | 歌い手の境遇 | ? |
うそ | たったひとつの | 約束 |
こんな風に割り振ることができるかもしれませんね! 確実なもの、目指すべきものの象徴としての約束、です。
一方で、ZONE『約束 〜August, 10years later〜』には、サビにこんな印象的な歌詞が出てきます。
巡る風 季節は過ぎ 僕達の約束 色あせない
私たちはここまで、この約束は果たせなかったと思いながら読んできたわけですが、これを「色あせない」と表現するのはおしゃれですね。
約束って、果たされた時点で消えてしまうものだと思います。「CDは来週に返すね!」って約束したとして、ちゃんと翌週にCDを返却したとしたら、その時点で約束は終了です。きちんと履行されたのなら、その後になって蒸し返すことはなにもありません。
でも、約束が果たされなかったとしたら? 約束は約束のまま生き続けます。それを「叶わなかった約束」と表現することもできます。でもそれだと、今後もう叶うことはないような気がしますよね。それを「約束は色あせない」と表現するとしたら、約束にはまだ消えない色がついていて、それが残ったまま、未来へと続くように思えます。
未来にはあてがありません。それでもちゃんと息をしたまま約束が未来へとつながっているんだなって、感じることができますね! 切ないけれど、それがたぶん、いまの唯一の希望なのです。
この曲は作詞がZONE名義です。ってことはメンバーのみんなが作詞に携わったのでしょうね。
基本的に、複数の人が作詞にかかわっていると必然的に歌詞の内容がぼやけてしまうと私は思っています。経験上そうなんだよなぁ。でもこの曲はすごく芯がしっかりしています。ひとつの読みで矛盾する部分があんまり出てこない、みたいな。
それって、歌詞を書くときにZONEのメンバーがちゃんとコミュニケーションをとれている証だと思います。それか、とりたててコミュニケーションをとろうとしなくてもシンクロし合う部分があったのか、どちらかですね。
どちらにしても、しっかりした背骨のある歌詞だなぁって私はつくづく思います。ウラの事情はよく分かりませんが、もしかしたらかなり時間をかけて準備をしていたのかもしれないですね。
この歌詞を悪く言う人だってたくさんいらっしゃるのでしょうが、少なくとも私は決してそうは思いませんでした。アンサーソングは、ちゃんとアンサーを与えてくれましたね。
そして、この歌詞の内容だとまたこれからに、ちょっと期待できそうですね☆
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